妊婦さんと薬の危険性

■ はじめに
妊婦中の薬の危険度は、薬そのものの「危険度」だけでは決まりません。もっとも重要なのは「使用時期」です。そのほか「使用期間」、「使用量」、「使用経路(内服、注射、外用)」、「併用薬」なども関係します。これらを総合的に評価して、妊娠や胎児への影響度を判定することになります。

■ 危険度とは
薬そのものがもつ、胎児への催奇形性・胎児への毒性・妊婦に対する副作用などを意味します。どのような危険性がどの程度あるのかは、動物実験、症例報告、臨床試験、疫学調査などから評価されます。

催奇形性について
薬とは関係なく、通常の妊娠においても奇形は発生します。心室中隔欠損症などの心臓の異常、外奇形では口唇裂や口蓋裂が代表的です。このような先天奇形をぜんぶ合わせると、100人に2人ないし3人くらいの割合になります。
原因についてははっきり分からないことが多いのですが、遺伝的要因と環境要因が考えられています。このうち薬が原因とされるのは、奇形全体の1%にすぎないといわれます。ある意味、奇形を生じるのは確率的な問題で、すべての妊婦さんに共通のリスクと言えます。奇形という意味で、もっとも注意が必要な時期は赤ちゃんの基本的な形が作られる妊娠初期です。とくに2ヶ月目が重要で、妊娠後期になるほど危険性は低くなります。

胎児毒性について
おなかの赤ちゃんの発育や機能に悪い影響をすることを「胎児毒性」といいます。多くの薬は胎盤を通過して、胎児にも移行します。たとえば消炎鎮痛薬の内服は胎児の血管を収縮させたり、新生児肺高血圧症の原因にもなりかねません。また腎臓の働きを悪くして尿量を減少させ、羊水過少をまねくおそれもあります。このような胎児毒性は、妊娠初期よりも後期から分娩に近いほど影響がでやすいので注意が必要です。

■ 使用時期
薬が、お腹の赤ちゃんに及ぼす影響は、使用時期によって違います。奇形に関して最も心配なのは、赤ちゃんの形がつくられる妊娠初期です。妊娠後期では奇形の心配はなくなりますが、赤ちゃんの発育や機能に悪い影響をする胎児毒性が問題となってきます。解熱剤や消炎鎮痛剤のなかには、妊娠後期に禁止されるものがあります。これは、妊娠後期の胎児毒性が問題だからです。

お腹の赤ちゃんに及ぼす影響

■ 使用期間
当然のことですが、使用期間は短期間のほうが影響は少ないです。かぜ薬や鎮痛薬など急性疾患における対症療法薬は、症状がなくなった段階で早めに止めましょう。ただし、甲状腺の病気や喘息など慢性的な病気では、妊娠全期間をとおして治療を続けなければならないこともあります。

■ 使用量
一般的に薬の使用量が多いほど危険度が高まります。その典型的な例としてビタミンAがあげられます。ビタミンAは妊娠中にも必要なビタミンなのですが、薬として過剰に服用するとかえって奇形の発現率が高くなることが知られています。
アスピリンでは、消炎鎮痛作用を目的とした量の服用は控えるべきですが、抗血小板作用として最少量を用いるのであれば比較的安全と考えられています。

■ 使用部位
薬は、口から飲む「内服薬」、血管に注射する「注射薬」、皮膚や粘膜に直接使用する「外用薬」に分かれます。内用薬と注射薬は、全身作用があるので妊娠中は慎重に用いるようにします。痛み止めの坐薬など一部の外用薬は全身作用があるので同様に注意が必要です。一方、かゆみ止めの塗り薬、痔の坐薬、目薬、点鼻薬、喘息の吸入薬など局所だけに作用する外用薬については、通常の範囲であれば妊娠中でも安全とされています。