女性と脂質異常症

■ はじめに
脂質異常症とは、血液中の脂質なかでもコレステロールや中性脂肪が増えすぎた状態を指します。コレステロールは細胞膜を構成したり、ステロイドホルモンの原料にもなります。また中性脂肪は体のエネルギー源となり、ともに重要な物質です。しかし、増えすぎると自覚症状のないまま動脈硬化が進行して、狭心症・心筋梗塞・脳梗塞などの原因になってしまいます。

■ 善玉コレステロールと悪玉コレステロール
消化管から吸収されたコレステロールは血液中では「リポタンパク粒子」として血液中に溶けて存在しています。コレステロールを肝臓から全身に運ぶ役割をしているのがLDLコレステロールです。LDLコレステロールが増えすぎると、血液中のコレステロールが過剰になり血管壁に溜まり、動脈硬化を引き起こします。そのためLDLコレステロールは悪玉コレステロールと呼ばれています。その反対に肝臓に戻して、細胞や血液中のコレステロールを下げる役割をしているのがHDLコレステロールで、善玉コレステロールと呼ばれています。

■ 診断基準(日本動脈硬化学会)
高コレステロール血症   220mg/dl以上
高LDLコレステロール血症  140mg/dl以上
高トリグリセリド血症   150mg/dl以上

いずれかが高値であれば脂質異常症と診断されます。
一般の検査では、総コレステロール、HDLコレステロールおよび中性脂肪(トリグリセライド)が測定されていて、LDLコレステロールの結果は記載されていません。
LDLコレステロールの量は、
LDLコレステロール=総コレステロール−HDLコレステロール−(中性脂肪÷5)
で求められます。
また、日本人の心筋梗塞による死亡率は、欧米白人男性の約1/3-1/5で、さらに日本人女性は日本人男性より低いため、日本人女性の脂質の正常値を男性よりも高く設定しても良いとの声も少なくありません。

■ 頻度と性差
現在日本には約3000万人以上の患者さんがいるといわれ、頻度は極めて高いものです。女性ホルモンであるエストロゲンには、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を低下させ、善玉コレステロールを増加させて血管を守り、循環器系に作用して血液の流れを改善する働きがあります。また、LDLコレステロールが酸化されることによってできる酸化LDLコレステロールには強い動脈硬化促進作用があることが知られていますが、エストロゲンには抗酸化作用があり、酸化LDLコレステロールの産生を抑制しています。よって更年期以後は、エストロゲンの急激な減少により、脂質異常症・動脈硬化が進行します。
脂質異常症を年代別に見ると、35歳~44歳では女性は男性の約半数、50歳を過ぎると男女比が逆転。55~64歳では女性は男性の約2-3倍、65~69歳になると3-4倍に増えると報告されています。

■ 脂質異常症が持続すると動脈硬化が起きやすい
動脈硬化は全身の動脈で起こりますが、その部位によって病気とその症状が異なります。

  1. 脳動脈、頚動脈
    脳梗塞、脳出血、老年性認知症など
  2. 冠動脈
    心臓に酸素や栄養を運んでいるのが冠動脈です。この血管が動脈硬化で細くなり血流が不足すると心臓が酸素不足に陥り、胸の痛みや息苦しさを伴う発作を起こします。これが狭心症です。さらに完全に詰まった状態になった場合を心筋梗塞といい、激しい胸痛や呼吸困難が起きます。
  3. 胸部大動脈や腹部大動脈
    動脈の一部がふくれた状態を動脈瘤といい、できる部位によって胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤になります。瘤のできた部分が破裂して大出血を起こしショック状態になると、短時間で死亡することもある危険な病気です。
  4. 腎動脈
    高血圧が長期間続くと腎臓の中の細い動脈にも動脈硬化が起こり、腎臓機能が低下し腎不全になります
  5. 末梢動脈
    下肢の動脈に動脈硬化が起こり血流が低下すると、下肢のしびれや疼痛などの症状が現れることがあります。閉塞性動脈硬化症では、間欠性跛行(かんけつせいはこう)といって、歩くと末梢の酸素が不足して痛みがでて、少し休むと痛みがおさまるといった症状を伴うことがあります。また動脈硬化が進行すると足指に栄養が行き届かなくなり、壊死することもあります。

■ 治療の選択と手順
まず最初に、糖尿病・甲状腺機能低下症・ネフローゼ症候群・クッシング症候群などを原因疾患とする続発性脂質異常症と、原因疾患のない原発性脂質異常症を鑑別する必要があります。
続発性脂質異常症では、原因疾患の治療が優先されます。
原発性脂質異常症では、食事や運動を含めた生活習慣が脂質異常症の大きな原因となっています。したがって、まずライフスタイルの改善を行います。

食事療法
食事療法による生活習慣の改善には、食事内容と食行動を見直す必要があります。食事内容の改善でまず重要なことは、標準体重(身長×身長×22)に合わせた摂取エネルギーに補正する事です。標準的な摂取エネルギーは標準体重×25-30Kcalで求められます。適正な摂取エネルギーのなかで糖質、脂質、たんぱく質のバランスをとり、コレステロールや飽和脂肪酸摂取を制限します。たとえばいくら、かずのこ、ししゃも等は、コレステロール含有量が多く、霜降り肉、バター、ベーコン、コンビーフ、ソーセージ等には飽和脂肪酸が多く含まれているので控えて下さい。
また食物繊維の多いものは便の中にコレステロールを排出させる作用が強く、血中コレステロールを下げます。
食行動の改善には、1日3食の配分を均等にする、早食いを避ける、夜食を避けるなどがあげられます。
その他、適度のアルコールは善玉コレステロールを増やしますが、多いと中性脂肪を増加させ、かえって動脈硬化を進める原因となります。また喫煙は善玉コレステロールを減らし動脈硬化を進めるので、できれば禁煙すべきでしょう。

運動療法
運動療法には、HDLコレステロールを増やし、中性脂肪(トリグロセリド)を減らす効果があります。早歩き、ジョギング、水中歩行、水泳、サイクリングなどの軽い有酸素運動を毎日30分以上を目安に続けることが推奨されています。

薬物療法
薬物療法には、LDLコレステロールの低下、トリグリセリドの低下、HDLコレステロールの上昇を指標とした薬剤選択が必要です。
高LDLコレステロール血症の場合には、主にHMG-CoA還元酵素阻害剤(スタチン)、陰イオン交換樹脂(レジン)、プロブコール、ニコチン酸誘導体
高トリグリセリド血症にはフィブラート系薬、ニコチン酸誘導体、EPA(エイコサペント酸エチル)
LDLコレステロールとトリグリセリドが両方とも高い場合にはスタチン、スタチンとニコチン酸誘導体の併用、フィブラート系薬
などが使用されます。
スタチンやフィブラート系薬では、特に横紋筋融解症に注意が必要です。