子宮内膜症

■ はじめに
月経痛をおこす代表的な病気に子宮内膜症があります。成人女性の10人に1人が発症するといわれている疾患で、30〜40歳代に多く、近年は20歳代でも多発傾向にあります。
子宮内膜症を放っておくと、年を追うごとに症状が悪化して、痛みのために快適な日常生活が送れないこともありますし、卵管癒着や卵管閉塞により不妊の原因になる事もあります。

■ 子宮内膜症とは?
子宮内膜は女性ホルモンの働きで増殖し、排卵が起こると妊娠に備えてフカフカのベッドのように厚くなります。そして妊娠が成立しなければ厚くなった子宮内膜は剥がれ落ちて、月経血として膣から排出されます。この子宮内膜が何らかの原因で、本来ある場所とは違う所で増殖するのが子宮内膜症です。子宮内膜は、どの場所にあっても女性ホルモンに反応して増殖→剥離→出血という周期的変化を起こすので、その結果として月経痛など種々の症状が出現する事になります。

■ 子宮内膜症の分類
● 子宮線筋症
子宮線筋症子宮内膜が子宮壁の筋肉のなかに侵入し、筋層内で増殖して病変を作ったものです。
子宮腺筋症は他の子宮内膜症より発症年齢が高いこと(40才代に最も多く見られます)や発生の仕組みが少し違うので、子宮内膜症からはずして考える事もあります。
激烈な月経痛を伴うことが多く、月経が終わっても痛みが持続し、ひどい人になると強い消炎鎮痛剤を使っても痛みを軽減できないこともあるくらいです。
子宮線筋症では、見かけ上は子宮が大きくなり、月経過多の患者さんも多く、また子宮筋腫と合併する事もあるので、子宮筋腫との鑑別は必ずしも簡単ではありません。詳細な問診、経腟超音波検査、腫瘍マーカーであるCA125が高い、月経困難症が子宮筋腫より強いなどを参考にして総合的に診断します。

● いわゆる子宮内膜症
子宮内膜症(外性子宮内膜症や異所性子宮内膜症とも呼ばれます)
月経血とともに体外に排泄されるはずの内膜組織が卵管を通って逆行して、子宮の周りのある卵管、卵巣、腹腔内、骨盤内臓器などに付着して、その場所で子宮内膜が増殖するタイプです。
子宮内膜症の病変部分からも、正常の子宮内膜から起きる出血(月経)と同じように出血が繰り返されます。
しかし、出血した血液は体外に排出されないので、卵巣の中にたまったり、お腹の中で固まって血腫を作ったりします。そして、出血がひどくなると炎症が起き、まわりの臓器と癒着をおこすようになります。
卵巣チョコレートのう胞:子宮内膜症のうち卵巣内に病変があり、繰り返す出血のため血液が卵巣内にたまってチョコレート状に変性したものです。

■ 子宮内膜症の症状

子宮内膜症
「月経痛」は約9割の人にありますが、「月経時以外の下腹部痛」も約7割の人に認められます。痛みの持続期間の検討では、4週間の月経サイクルの中で、ほぼ毎日痛いという人が約10%、2週間以上痛む人が約30%、1週間以上痛む人は約70%にもなります。
他に原因がある場合もありますが、「性交痛」と「排便痛」は、子宮内膜症に特徴的な症状でもあります。

特に子宮線筋症(子宮筋層内で子宮内膜が増殖するタイプ)の痛みは激烈で、月経過多を伴うことが多いのが特徴です。

* 子宮内膜症と関係のない「月経困難症(日常生活に支障をきたすほどの月経痛)」という状態があります。子宮内膜症や子宮筋腫があってもなくても、出産の経験のない女性は子宮の出口(子宮腟部)が狭くて堅いため、月経血が狭い場所を通って出ていこうとするだけで強く痛むこともあります。また月経の頃には、子宮やその周辺は血管が豊富になって血液が多く存在するため、うっ血した状態になって痛むという事もあります。しかし、市販の鎮痛剤で収まらないほどの痛みがあれば、何らかの問題があるという証拠ですから、早めに検査する事をお勧めします。

■ 治療について
子宮内膜症の治療には、薬物療法と手術療法があります。日本では薬物治療が中心となっていますが、薬物療法は何をどう使っても子宮内膜症を一時的に緩和するための治療です。欧米では、診断と治療をかねて腹腔鏡下手術が第1選択となっている国もあります。子宮内膜症は慢性疾患ですから、それをもつ女性の長い人生を考えた治療が必要です。薬物治療を何年も繰り返して行い、コントロールが不良になった時に手術療法を選択した場合、お腹の中の病変が既に頑固な癒着を起こしていて、奥にある病変が処置できないこともあります。
●薬物療法

  1. 対症療法・・・非ステロイド系消炎鎮痛剤、解熱鎮痛剤、漢方薬、抗不安薬など
  2. ホルモン治療
    ①男性ホルモン誘導体(ダナゾール)の長期内服
    副作用は、体重増加や肝機能障害、にきびなどです。
    ②GnRHアナログ(性腺ホルモン放出ホルモンアナログ)— 偽閉経療法
    人為的に閉経状態を作って、月経を止めるためのホルモン剤(スプレキュア、ナサニール、リユープリン、ゾラデックス等)です。これには月に一度注射を打つ方法と毎日鼻腔内薬をスプレーする方法があり、約6ヶ月間続けます。この治療中は月経がありませんので月経痛はありませんし、月経が無いことによって新たな出血がないため病変部が自然吸収されて改善する事になります。しかし、時間が経過するにつれて再燃することがあります。偽閉経療法中は副作用として更年期障害と同様の症状(ほてり、発汗などが)や脂質異常症・骨粗しょう症が進行することがあります。
    ③低容量ピル( 偽妊娠療法
    ピルは妊娠した時と同じようなホルモン環境を作り、子宮内膜症の悪化を防ぐ目的で古くから使われてきました。月経痛は軽減され、消退出血も少量となります。低用量ピルは、年単位の連続使用ができ、副作用も軽くてすみます。費用は自費となりますが、1ヶ月の薬代は2000−3000円程度です。

など

●手術療法
最近では開腹手術ではなく、侵襲性の少ない 腹腔鏡下手術 が多く行われています。将来妊娠出産を希望されている方は妊孕性(にんようせい)を失わないような手術となりますが、妊娠出産を終えて挙児希望のない方では子宮、両側卵巣とも摘出となることもあります。