プロラクチン分泌異常症

■ はじめに
下垂体から分泌され乳汁分泌を促すプロラクチン(PRL)というホルモンが、過剰または不足した場合に生じる病的状態をプロラクチン分泌異常症と呼びます。
プロラクチン分泌が過剰の女性は、乳汁漏出、無月経を伴うことが多いので、乳汁漏出・無月経症候群とも呼ばれます。またプロラクチン(PRL)分泌低下症は分泌欠損症ともよばれます。

■ 性差と発症年齢
プロラクチン過剰分泌症の約80%は女性です。発症年齢では21−40歳の成人女性に多発する傾向があります。プロラクチン分泌低下症の男女比は約1:2で、発症年齢は11−75歳に広く分布しています。いずれも女性に多く見られる病気です。

■ 原因は
プロラクチン(PRL)の過剰分泌症は、下垂体PRL分泌細胞の異常、視床下部分泌調節機構の異常のいずれによっても生じます。

  1. 薬剤性
    日常最も多く経験するのは、薬剤の副作によるものです。視床下部のドーパミン機構に拮抗的に作用する降圧薬や抗潰瘍薬、中枢神経作用薬などはPRL分泌を促進します。また避妊薬もPRL分泌を促進します。
  2. 下垂体腫瘍
    下垂体PRL産生腺腫は下垂体腫瘍の中で最も多い腫瘍です。
  3. その他
    甲状腺機能低下症、胸部外傷、精神疾患、腎不全、下垂体以外の場所でのPRL産生腫瘍においてもPRL分泌亢進がみられます。また原因が明らかでない特発性の高プロラクチン血症もあります
    プロラクチン(PRL)の分泌低下症は非機能性下垂体腺腫、シーハン症候群(出産時の下垂体部出血で下垂体機能が低下した病態)、原因のはっきりしない特発性下垂体機能低下症によって生じます。

■ この病気ではどのような症状が起きますか?
プロラクチン(PRL)過剰分泌症の女性では、無月経、月経不順、無排卵性の性器出血など月経異常、乳汁分泌、不妊などが高頻度にみられます。下垂体腫瘍が原因の場合には、頭痛、視力視野障害、嘔気などの症状をともなう場合があります。
プロラクチン(PRL)低下症の女性では、分娩後の乳汁分泌が認められません。

■ 治療はどうしますか?
プロラクチン(PRL)分泌異常の原因になっている原因を取り除く療法が優先されます。
薬物服用の副作用によるPRL過剰分泌症においては、原因薬剤の投与を中止すると通常2−4週以内に症状は改善されます。
甲状腺機能低下症では、甲状腺薬の補充療法を行います。甲状腺機能の正常化にやや遅れてPRL分泌が正常化します。
下垂体PRL産生腫瘍によるプロラクチン分泌過剰症は、内科的薬物療法、外科的手術療法、両者の併用のいずれかによって治療されます。
妊娠を希望する場合には薬物療法が優先される場合もあります。ブロモクリプチン、カベルゴリン、テルグリドの内服治療によって、治療開始3ヵ月以内に血中プロラクチン値は正常範囲内に低下する症例が多いと考えられます。血中プロラクチン値が低下すると、乳汁漏出や月経異常、性機能の改善が認められます。
プロラクチン分泌低下症に対する補充療法は通常は行いません。

■ どのような経過をたどりますか?
プロラクチン分泌過剰症の女性において、治療による不妊症の改善成績は良好です。原因疾患にもよりますが、60−80%が妊娠可能になると考えられています。
下垂体プロラクチン産生腫瘍は、一般に良性腫瘍ですが、まれに癌化して転移性の変化を示すことがありますので、脳神経外科にて定期的にCTやMRIにて経過観察する事が大切です。また一部の下垂体プロラクチン産生腫瘍は大きな腫瘍に進展して、下垂体から上部の脳や周辺の組織を圧排して視野・視力障害など中枢神経機能障害の原因になることがありますので、注意が必要です。
小さな下垂体プロラクチン産生腫瘍は、薬物投与のみで画像検査で分からないほど腫瘍が小さくなる場合があります。