女性と遊走腎

■ はじめに
腎臓は、立っている時よりも横になっている時のほうが、重力の影響で位置が少し下がります。また、息を吸うと横隔膜は下がるため腎臓も下がり、息を吐くと横隔膜が上がるため腎臓も上がります。この様に、腎臓は体の動きにあわせて一定の範囲で動いています。
しかし、中には腎臓が生理的な範囲を超えて下がる人がいます。ひどいケースでは下がった腎臓が骨盤の中に入り込むこともあります。このように腎臓が普通の位置よりも下がってしまう状態を「遊走腎(ゆうそうじん)」といいます。
腎臓が下がっただけなら問題はありませんが、極端に下垂すると、それにつられて血管が引っ張られたり、尿管が折れ曲がったり、下がった腎臓が他の臓器を圧迫したりして、症状が出てくるときがあります。

■ 性差
遊走腎は圧倒的に女性に多く、特にやせ型の若い女性によく見られます。腎臓は動脈と静脈の二本の太い血管だけで固定されており、周囲の脂肪や筋肉に囲まれる事で位置が保たれています。やせ型の女性では、腎臓周囲の脂肪が少なく、また腹部の筋力も弱いため、腎臓の位置が保てなくなり、遊走腎がおきやすくなっています。
また遊走腎は右の腎臓に起こりやすいのが特徴です。

■ 遊走腎の症状は?
腎臓の下垂があっても自覚症状がない人はたくさんいます。検診の時などに偶然、血尿やたんぱく尿が見つかって調べてみると、原因が遊走腎だったということもあります。
自覚症状 :立ち続けていると現れやすくて、横になって安静にしていると軽快するのが特徴です。
疼痛 :最もよく現れる症状は痛みですが、わき腹・上−側腹部痛・背部あたりの痛みがみられます。右の腎臓に起こることが多いので、痛みも右側に起こることがほとんどです。
血尿・たんぱく尿 :腎臓の下がり方がひどいと、血管が引っ張られたり、下がった腎臓が尿管を圧迫したりして、血尿やたんぱく尿などが出ることもあります。
排尿困難・頻尿 :腎臓が下がることで、尿管や膀胱が圧迫され排尿困難や頻尿が起こることがあります。
不定愁訴 :頭痛や耳鳴り、倦怠感・胃腸障害などが起こることもあります。

■ 治療
以前は腎臓を固定する手術も行われていましたが、水腎症など重篤な合併症がない限り保存的に行われます。
痛みがひどければ痛み止めの薬を使用することもありますが、腎臓が下垂するのを防ぐ日常の生活対策が基本となります。

  1. 長時間、立ち続けない。
  2. 腎臓が下がった状態で、ウエストを締め付けない
    立ったままの姿勢からウエストを締めつけるものを付けたり着たりすると、腎臓が下がったままの状態で固定されるので注意して下さい。
  3. 腹筋を強くする
    腹筋を鍛えると、腎臓を支える力が強くなって下がりにくくなります。
  4. コルセットを着用
    腎臓の下垂がひどい人は、下腹部に医療用のコルセットを着けて腎臓が下垂しないようにします。この時、骨盤を高くして腎臓が下垂していない状態でコルセットをけることが大切です。