女性と高血圧症
■ はじめに
高血圧は体に良くないというのは、誰もが漠然と知ってはいますが、具体的に何が問題なのか、どうして怖いのかといった基礎知識は意外と知られていません。まずは、正しい知識を知ることで、高血圧がどういうものなのかを理解する必要があります。
血圧とは、簡単に言うと心臓が血液を全身に送り出す際の圧力のことです。この圧力が基準値以上の状態が続く状態を高血圧といい、これが一般に言われる高血圧のことです。
高血圧自体の自覚症状はほとんどありませんが、高血圧を放置しておくと動脈硬化を起こし、やがて狭心症・心筋梗塞・心不全などの心臓合併症、脳梗塞・脳出血などの脳血管合併症、蛋白尿・腎不全などの腎臓合併症、網膜症などの眼合併症をおこします。高血圧の恐ろしさは、この合併症にあります。
■ 頻度と性差
高血圧症の患者さんは約3000万人いると推定されています。グラフの通り、30-40台では圧倒的に男性が多いのですが、女性では50歳以降(閉経以降)から増え始めて、70歳以降では男女比はほぼ同数になることが分かります。
■ 高血圧症の定義
成人における血圧値の分類(2004年度:日本高血圧学会)
分類 | 収縮期血圧 | 拡張期血圧 | |
---|---|---|---|
至適血圧 | < 120 | かつ | < 80 |
正常血圧 | < 130 | かつ | < 85 |
正常高値血圧 | 130 ~ 139 | または | 85 〜 89 |
軽症高血圧 | 140 ~ 159 | または | 90 ~ 99 |
中等症高血圧 | 160 ~ 179 | または | 100 ~ 109 |
重症高血圧 | ≧ 180 | または | ≧ 110 |
収縮期高血圧 | ≧ 140 | かつ | < 90 |
■ 高血圧のリスク分類
高血圧患者さんを血圧分類、主要な危険因子、高血圧性臓器障害、心血管病の有無により、低リスク、中等リスク、高リスクの3群に階層化しています。この分類を元にして、治療計画を決定していきます。
心血管病の危険因子は
1.高血圧
2.喫煙
3.糖尿病
4.脂質代謝異常(高コレステロール血症、低HDLコレステロール血症)
5.肥満(特に内臓肥満)
6・尿中微量アルブミン
7.高齢(男性60歳以上、女性65歳以上)
8.若年発症の心血管病の家族歴
の、以上の8つです。
■ 初診時高血圧症の管理計画
初診時の高血圧管理は、上記で判定されたリスクに応じて治療計画をたてます。
■ 生活習慣の修正項目
① 食塩制限 6g/日未満
② 野菜・果実を積極的摂取する
ただし、野菜・果物の積極的摂取は、重篤な腎障害を伴うものでは高K血症をきたす可能性があるので推奨されません。また、果物の積極的摂取は摂取カロリーの増加につながることがあるので、糖尿病患者さんでは推奨されません。
③ 適正体重の維持:BMI(体重(kg) ÷ [身長(m)× 身長(m)])で25を越えない
④ 運動療法:心血管病のない高血圧患者さんが対象で、有酸素運動・毎日30分以上を目標に定期的に行う
⑤ アルコール制限:エタノールで男性は20~30ml/日以下、女性は10~20ml/以下にする
⑥ 禁煙
■ 薬剤治療
主要降圧薬の積極的な適応と禁忌
降圧薬 | 積極的な適応 | 禁忌 |
Ca拮抗薬 | 脳血管疾患後、狭心症、左室肥大、糖尿病、高齢者 | 房室ブロック |
ARB | 脳血管疾患後、心不全、心筋梗塞後、左室肥大、腎障害、糖尿病、高齢者 | 妊娠、高カリウム血症、両側腎動脈狭窄 |
ACE阻害薬 | 脳血管疾患後、心不全、心筋梗塞後、左室肥大、腎障害、糖尿病、高齢者 | 妊娠、高カリウム血症、両側腎動脈狭窄 |
利尿薬 | 脳血管疾患後、心不全、腎不全(ループ利尿薬)、高齢者 | 痛風 |
β遮断薬 | 狭心症、心筋梗塞後、頻脈、心不全 | 喘息、房室ブロック、末梢循環障害 |
α遮断薬 | 脂質異常症、前立腺肥大 | 起立性低血圧 |
*Ca拮抗薬は男性よりも女性で降圧効果が高いと指摘されています。
*ACE阻害剤の副作用として「空咳」は有名ですが、この副作用は女性に多くみられます。