Q熱

■ はじめに
人獣共通感染症とは、人にも動物にも共通して感染する病原体を原因にして発症する病気ですが、医師の認識不足により非常に見逃されやすい疾患です。その中でQ熱(慢性Q熱)は、原因不明の発熱、全身倦怠や疲労感を特徴とする慢性疲労症候群との鑑別疾患として非常に注目されています。
Q熱は1935年、オーストラリアの家畜場の従業員の間で流行した原因不明の熱性疾患として発見され、のちにCoxiella burnetii(コクシエラ菌)を病原菌とした感染症であることが明らかにされました。Q熱という病名は、「Query fever =不明熱」に由来しています。
日本では、1988年カナダより帰国した留学生が最初のQ熱として報告されました。これを契機に国内での調査・研究が進み、わが国にもQ熱が存在することが明らかとなり、その発症は増加傾向にあります。

■ 疫学
感染源はおもに家畜・野鳥・動物(ネコや犬など)・ダニ類で、感染動物にはほとんど症状がありません(=不顕性感染)。またヒトからヒトへの感染はほとんど起らないとされています。
日本にQ熱は存在しないと考えられていた時期がありましたが、最近の研究から色々な病気との関連性が疑われています。たとえば、体がだるくて学校にも行けない・怠け者だと言われ続けていた小学生が、病院で検査したところQ熱が原因だと分かり、治療で治癒した事が報告されています。
コクシエラ菌は、家畜に多く感染していることは以前から分っていましたが、家畜との接触がない人にも発症している事から、ペットからの感染が疑われていました。そして日本でもネコやイヌの検査が行われ、ペットから人への感染があると確認されました。

■ 感染経路
Q熱の病態は急性型と慢性型の2つに分けられます。急性型の潜伏期は一般的には2〜3週間で、感染量が多いと短くなると言われています。症状は発熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感、呼吸器症状などで、インフルエンザの症状と似ていますが、その臨床像は多彩です。検査所見では、炎症反応陽性、肝逸脱酵素(AST/ALT)の上昇、血小板の減少、貧血などが見られます。また、急性型の2〜10%は慢性型に移行すると言われています。慢性Q熱では、倦怠感・不眠・関節痛などの症状が数ヶ月〜十数年もの間持続するため、慢性疲労症候群との鑑別が問題となっています

■ 診断と治療
動物、特にネコとの接触歴を確認する必要があります。急性期には患者さんの血液を用いて、コクシエラ菌遺伝子の有無を核酸増幅検査(PCR法)にて確認します。またはコクシエラ菌に対する血清抗体価を検査して感染の有無を調べます。

治療にはテトラサイクリン系の抗菌薬が第一選択薬であり、クロラムフェニコールなども有効とされています。1回100mgのミノサイクリンを1日2回14日間内服するのが代表的な治療法です。急性期に適切な治療を行い、慢性型に移行させないことが重要です。