鉄欠乏性貧血

■ はじめに
赤血球はヘモグロビンと呼ばれる鉄を含んだ赤い血色素を含んでいます。赤血球の役割は酸素を運搬する事ですが、実際に酸素と結合するのはヘモグロビンです。ヘモグロビンは肺で酸素を結合して、全身の組織に酸素を運んでいます。ヘモグロビン値が低下した状態を貧血といいますが、一般に男性では13-14g/dl 以下、女性では11-12g/dl 以下に減少した場合をいいます。

■ 鉄欠乏性貧血とは?
体の中に存在する鉄には血液中に存在する血清鉄と、肝臓や脾臓などの臓器に貯蓄されているフェリチン(貯蔵鉄)があります。フェリチンと呼ばれる鉄は、私達の生活にたとえると貯金に相当しまが、この貯金であるフェリチンが低下して起きる貧血が鉄欠乏性貧血の本体です。貧血の約8割が、この鉄欠乏性貧血で若年女性に多く見られます。

■ 症状
一般には顔色が悪い、息切れ、動悸、立ちくらみ、頭痛、めまい、耳鳴り、疲労などの症状がありますが、ひどい貧血があっても自覚症状が全くみられない事もあります。特に慢性的にゆっくりと進行する鉄欠乏性貧血の場合には、貧血が進んでいるのに自覚症状に乏しいか、まったく欠けている場合もあります。
そのため、健診など採血の機会にたまたま発見されることも少なくありません。

■ 原因
鉄が不足する原因には(1)鉄の摂取不足(極端な偏食など)(2)鉄の吸良(胃の手術後など)(3)鉄の需要の増大(妊娠など)(4)鉄の喪失 がありますが、最も多い原因は(4)の鉄の喪失です。女性は月経などの生理的出血による鉄の喪失があるため、若い女性に鉄欠乏性貧血が多いのは当然といえます。一方、男性や閉経後の女性に鉄欠乏性貧血が生じた場合、からだのどこかに出血をきたす病変が存在すると考えられます。その多くは消化管に由来するもので、胃・十二指腸潰瘍、胃がん、大腸がん、痔などが高頻度に見られますので、検査することをお勧めします。

■ 治療
治療の原則は原因疾患に対する治療と鉄の補給です。鉄欠乏の原因となる食生活に問題がある場合にはこれを改善することが大事ですが、一般には鉄の補給に鉄剤を内服します。しかし吐き気などの胃腸障害のために内服が継続出来ない場合には鉄剤を注射することもあります。鉄の投与で大事なのは、フェリチンという貯蔵鉄を十分に増やすことです。

■ 鉄不足の予防
予防には、なんといっても鉄の多い食品をたくさんとることですが、さらに栄養バランスのいい食事を心がけることも大事です。食物に含まれる鉄は大別すると2種類あり、肉やレバー、魚などの動物性食品に含まれる「ヘム鉄」と、野菜や海草などの植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」があります。ヘム鉄のほうが、非ヘム鉄より腸での吸収率が数倍高いので、貧血予防のためには、レバー、いわし、カキ、牛ひれ肉などを積極的に摂取しましょう。あさり、しじみ、ひじきなどの海草類や豆腐などの大豆製品も鉄分を多く含みます。