更年期障害の治療
■ 更年期障害の薬物治療
薬物療法には、幾つかの治療法があります。
1)ホルモン補充療法(HRT)
2)自律神経調節剤
3)抗うつ剤、抗不安剤など
4)漢方療法
が、その代表です。
いろいろある症状のうち、どの症状が最も強いのか、あるいはその人のパーソナリティなどから、その人に最も適した治療法を選択します。治療は1種類のこともありますし、いくつかの方法を組み合わせて治療する事もあります。その中でも最近は、ホルモン補充療法 (HRT) が治療の大きなウエイトを占めるようになってきました。ここではHRTについて少し詳しく説明します。
■ (F)ホルモン補充療法(HRT)とは?
ホルモン補充療法(HRT)とは、H ormone R eplacement T herapyの略です。
更年期障害の原因のかなりの部分は、卵巣からの分泌される女性ホルモンの分泌が減少し、その結果として自律神経が失調するために出現します。ですから、自律神経の失調を回復するには、足りなくなった女性ホルモンを補充してあげればよいわけです。これがHRTの原理です。事実、HRTにより更年期障害の多くの方は、辛い症状が改善します。
■ HRTは特にどのような症状に効きますか?
HRTでよく改善する症状は、体のほてり、発汗、息切れ、動悸などの血管運動神経症状とよばれる症状です。これに加え、イライラ、不眠、憂うつなど精神症状もかなり軽減します。その結果、心と体は元気を取り戻し、以前のように元気な日常生活を送れるようになったと感じる女性が多いのです。しかし一方で、HRTは万能な治療方法ではありません。寝つきが悪い、あるいは眠りが浅い人、手足の冷えなどは治療効果が乏しいのが現状です。このような人には睡眠剤や漢方薬を併用することもあります。
■ HRTがもたらす、その他の効果
- 骨粗鬆症を予防する効果
女性ホルモンには、骨を丈夫にする作用があります。よって女性ホルモンが急激に減少する閉経後には骨粗しょう症が進行します。HRTにより女性ホルモンを供給することにより、骨粗しょう症の予防に効果があります。 - コレステロールの上昇や動脈硬化を予防する効果
更年期になると、女性ホルモンの低下からコレステロールは上昇することが知られています。逆に女性ホルモンを補充すると、コレステロールの上昇に歯止めをかけることも可能です。もちろんHRTだけでコレステロールの上昇を止めることはできません。HRTに加え、食事療法や運動療法の併用が最も大切です。 - 結腸がん・直腸がんのリスクの低下
- 認知症の予防に有効?
女性ホルモンの補充により、アルツハイマー型認知症の予防にも効果的であるとの報告が数多くあります。
■ HRTのデメリット
マイナートラブル
HRTは必ずしも良いことばかりではありません。副作用とは言えないまでも、ちょっとした出血や乳房のはり感、多少の体重増加などのマイナートラブルがあります。
癌との関連性
HRTの中心は女性ホルモンのうち卵胞ホルモン(エストロゲン)ですが、エストロゲンには子宮や乳房の細胞を増殖させる作用があります。
子宮癌(子宮体癌):子宮体癌の原因になるのではないかと懸念されていました。しかし最近の多数の研究では黄体ホルモンを併用すればそのリスクは増加しないとの報告がほぼ定着しているといえるでしょう。
乳癌:日本人の乳癌の発生は欧米人に比較して少ないのですが、欧米の調査ではHRTを行った女性では乳癌の発生が増加するとの報告が幾つかあります。しかし人種差や食生活を含む生活環境の差のある日本人に、この報告をそのまま当てはめて考えるのは正確ではありません。
■ 更年期障害の治療を受けたい方へのアドバイス
更年期障害を決して我慢する必要はありません。HRTは決してこわい治療法でもありませんので、気軽にご相談下さい。HRTは単に更年期障害を治療するだけではなく、骨粗しょう症や脂質異常症を予防でき、その後の生活の質を高める治療法でもあります。これはあなただけの問題ではありません。御主人はもちろん、御家族皆さんのためにも、辛い更年期障害をのり越えて、活力に満ちた人生を過ごしていただきたいと願ってやみません。