橋本病

■ 性差と頻度
甲状腺機能低下症の代表的な病気が橋本病です。この病気は甲状腺に対する自己免疫疾患のひとつで、潜在性の橋本病も含めると女性では20-40人中1人いると言われています。好発年齢は40-50代で、女性が男性より約15-20倍と多いのが特徴です。

■ 原因
橋本病も甲状腺臓器特異性自己免疫疾患の1つです。自分自身の体の一部である甲状腺を異物とみなしてしまい、甲状腺に対する自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗マイクロゾーム抗体)ができます。この抗体が甲状腺を破壊していくため、徐々に甲状腺機能低下症になっていきます。

■ 症状
甲状腺が腫大は80-90%程度に認められますが、それ以外の症状はどれも20%以下と低いのが特徴です。それは多くの橋本病の患者さんでは甲状腺ホルモンの産生自体は正常範囲に保たれているからです。

甲状腺機能が正常の場合には全身的な影響はありません。甲状腺腫が大きい人では、たまに喉の圧迫感や違和感を訴える人がいますが、ほとんどの症例は無症状です。

甲状腺腫大:慢性甲状腺炎のため、硬く腫れてくる場合が多い

甲状腺機能が低下すると、全身の新陳代謝が悪くなり、以下のような様々な症状が現れます。

全身症状   :寒がり、疲れやすい、動作が鈍い、体重増加、むくみ、声がかれる
体温     :低くなる
顔つき・頚部 :前頚部の腫大、のどの違和感、ボーッとしたような顔
精神・神経症状:物忘れ、無気力、眠たい、ボーッとしている
循環器症状  :脈が遅い、息切れ、心肥大
消化器症状  :食欲低下、舌が大きい、便秘
皮膚     :汗がでない、皮膚乾燥、脱毛、眉が薄くなる、皮膚の蒼白
筋肉症状   :脱力感、筋力低下、肩こり、筋肉の疲れ
月経     :月経不順、月経過多、時に無月経
血液     :コレステロール高値、肝障害、貧血など

■ 慢性甲状腺炎(橋本病)の診断ガイドライン

a) 臨床所見
1. びまん性甲状腺腫大
但しバセドウ病など他の原因が認められないもの
b) 検査所見
1. 抗甲状腺マイクロゾーム(またはTPO)抗体陽性
2. 抗サイログロブリン抗体陽性
3. 細胞診でリンパ球浸潤を認める
1) 慢性甲状腺炎(橋本病)
a)およびb)の1つ以上を有するもの

■ 治療
甲状腺機能が正常であれば、体に影響がなく自覚症状もないので薬は必要ありません。ただし、甲状腺腫がかなり大きい場合は、甲状腺ホルモン剤を服用すると、ある程度腫れを小さくする事ができます。

甲状腺機能低下症がある場合は、不足している量の甲状腺ホルモンを薬として服用します。しかし、単に足りない分のホルモンを補充する治療ですので、血液検査をしながら適切な量を飲めば副作用の心配はありません。甲状腺ホルモン剤は、最初は少量ずつ服用し、徐々に増やしてその人の体に合った量を調べます。体調がよくなったからといって服用を中止してしまう人がいますが、体に足りない分を薬で補充してバランスがとれているわけですから、毎日決められた量を必ず服用して下さい。長期間の治療が必要となりますが、薬の効果がでればほとんどすべての症状は消失し、血液中の甲状腺ホルモンが正常にコントロールされていれば日常生活、運動、仕事、妊娠、授乳なども特に心配はいりません。