線維筋痛症候群

■ はじめに
線維筋痛症候群は、欧米では関節リウマチ(RA)に次いで頻度の高いリウマチ性疾患で認識度も高い病気ですが、日本国内では医師の間でも、この病気に対する認識が不足しているために見逃されやすい病気です。
身体の様々な部位に慢性の疼痛と筋肉のこわばりを自覚しますが、血液検査などでは特異的な検査はなく、治療抵抗性であり原因不明の疾患です。

■ 性差と頻度
約80-90%は女性であり、発症年齢は20−60歳で、その多くは40・50代で発病しています。日本国内では一般医にはほとんどなじみがないばかりではなく、本疾患の症状を真剣に取り扱う専門医も少ないため、心身症やうつ病などとして片付けられるケースが多い病気です。

■ 原因
約半数は感冒様症状に引き続き発症している事より、ウィルスなどの感染症との関連も指摘されていますが、特定の感染症との関連は明らかにされていません。

■ 症状
全身の慢性疼痛と明確な部位の圧痛があります。その疼痛は頚部・腰部などの体軸に集中する傾向があり、朝に悪化することも多く慢性関節リウマチに似ています。疼痛は慢性痛ですが、日によってもその程度は変化し、しかも激しい運動・睡眠不足・情緒的ストレス・天候などの外的要因によって悪化することも多いのが特徴です。
随伴症状としては、疲労・倦怠感、睡眠障害、起床時の不快感、便通異常、緊張性頭痛、手の腫脹感、頻尿、集中力低下、不安感、抑うつ傾向などがあげられます。

わが国における線維筋痛症の臨牀症状(%)
わが国における線維筋痛症の臨牀症状(%)

■ 線維筋痛症候群診断(分類)基準 (米国リウマチ学会、1990)
1.広範囲にわたる疼痛の病歴
定義:疼痛は以下のすべてが存在するときに「広範囲の疼痛」とされる。身体左側の疼痛、身体右側の疼痛、腰から上の疼痛、腰から下の疼痛、さらに体幹中心部痛(頚椎、前胸部、胸椎、腰椎のいずれかの痛み)が存在する。
2.手指による触診で図に示した18ヶ所の圧痛点のうち11ヶ所以上に圧痛を認める。

米国リウマチ学会の線維筋痛症診断予備基準

■ 治療
治療は薬物療法、リハビリテーション、心理療法の3つがあります。
リハビリテーションにはウォーキング、ジョギング、水泳、体操、エアロビクス、ヨガなどが効果的とされています。薬物治療に関しては、非ステロイド抗炎症薬(NSAID)、抗うつ薬が使用される事が多く、継続投与している症例では漢方薬の効果も指摘されています。また下向性疼痛抑制系神経賦活剤であるノイロトロピン内服も有効例が報告されています。最近では選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が効果的であると報告されていますが、特に聖マリアンナ医科大学の長田賢一氏は「線維筋痛症患者に対する薬物治療ではSNRIの投与が有効」と報告しています。いずれにしても、わが国の線維筋痛症の実態はまだまだ明らかにされていませんので,今後さらなる解析による治療が期待されます。