妊婦さんと放射線検査

■ はじめに
妊婦さんが不安に思うことの一つに薬やレントゲン検査の胎児に与える影響があります。
妊娠中に薬の内服やレントゲン検査を受けていない、いわゆる正常妊娠においても、統計学的には約0.9%の確率で胎児奇形が発生します。ですから仮に胎児奇形があったとしても、「薬やレントゲン被爆が胎児奇形の原因だ」と断定することは出来ません。しかし妊婦さんである母親は、胎児に対する薬や放射線の影響について非常に敏感で、非常に深刻に受け止めています。ここではレントゲン被爆と胎児に及ぼす影響につき、お話しします。
胎児へのレントゲン被爆の影響は① 被爆した時期 と② 胎児への被爆線量 の2点を考える必要があります。つまり「いつどのようなX線検査を受けたか」ということが問題になります。
●被爆時期と「しきい値」
妊婦さんが放射線に被曝した場合、胎児へ奇形等の影響を発生させる放射線量の最低の値(「しきい値」と呼ばれます)は 100mSv〜200mSvであると考えられています。
すなわち、しきい値線量を越えて被曝しなければ、基本的に胎児への影響は発生しないと考えられています。
その「しきい値線量」は

  1. 胚死亡(受精卵の死亡)として影響の出てくる受精後0〜9日では50〜100mSv
  2. 奇形発生の可能性がある器官形成期(受精後2〜8週、妊娠4〜10週)では100mSv
  3. 精神発達遅滞の可能性がある受精後8〜15週(妊娠10〜17週)では120〜200mSv

とされています。

胎児へのレントゲン被爆の影響

すなわち
・胎児奇形は、受精後2〜8週(妊娠4〜12週)の胎児が100mSvを超えて被爆すると発生する可能性がある。
・精神発達遅滞は、受精後8〜15週(妊娠10〜27週)の胎児が120mSvを超えて被爆すると発生する可能性がある。(知能低下は被爆線量に比例し、1,000mSv の被爆では知能指数(IQ)が約40程度低下すると報告されています)
と理解して下さい。

■ 胎児の被爆線量
それでは、実際にX線検査の際に、胎児の受ける線量(妊娠と気付かずに放射線診断を受けた場合)はどれ位なのか、国際放射線防護委員会(ICRP)およびはNRPB(イギリス放射線防護庁)の資料をご覧下さい。


■ 妊娠中の胸部レントゲンは大丈夫ですか?
表1で分かるように、胎児に奇形を発生させる被爆量は少なくとも100mSv以上とされています。胸部レントゲンに関しては、胎児への被曝線量は表2から分かるように0.01mSv未満です。よってどの時期に胸部レントゲン検査を行っても胎児への影響は無いと考えてさしつかえありません。

■ 妊娠に気づかないでCT検査を受けてしまいました。大丈夫ですか?
表2で分かるように、CT検査における胎児被爆量は頭部で0.005mSv未満、骨盤部CTで最大79mSvと報告されています。同じCT検査でも部位によって胎児の被爆量は大きく異なります。胎児に奇形を発生させる被爆量は少なくとも100mSv以上とされていますので、頭部CTは問題ないでしょう。
骨盤内CTも胎児の被爆量は79mSvですので、繰り返し検査が行われない限り大きな問題は無いと考えられていますが、最終的に妊娠を継続するかどうかは、これらの事実を踏まえ自分自身で判断する事になります。しかし妊娠中にレントゲン検査を受けていない、いわゆる正常妊娠においても、統計学的には約0.9%の確率で胎児奇形が発生しますので、奇形があったとしても放射線被爆が原因だと断定は出来ません。

■ レントゲン検査はいつ受ければよいですか?
胎児の被爆線量がいくら少ない検査であっても、妊娠中に不必要な被爆をしないにこした事はありません。妊娠を考えている女性が人間ドックなどでレントゲン検査を受けるとすれば、月経直後から約10日間の間すなわち妊娠が否定できる時期がベストです。
しかし、妊娠に気づかないで胸部レントゲン検査を行っても、基本的には問題のない被爆量ですので不安になる必要はありません。