シェーグレン症候群

■ はじめに
シェーグレン症候群(Sjogren’s syndrome:SjS)は、涙腺、唾液腺を中心とした外分泌腺に、原因不明のリンパ球による慢性炎症が生じて起きる自己免疫疾患です。1933年にスウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレンが眼の乾燥症状を全身疾患の部分症状として発表した論文にちなんでその名前がつけられた疾患です。日本では1977年の厚生省研究班の研究によって医師の間に広く認識されるようになりました。

■ 頻度と性差
この疾患の年齢層は50-60才代にピークがあります。少数ですが、子供から80才の老人まで発症します。男女比は1:14で、圧倒的に女性に多く見られる病気です。人口10万人あたりの患者発症率は女性で約25人前後と報告されています。

■ 病型
シェーグレン症候群は他の膠原病(慢性関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、多発筋炎・皮膚筋炎、混合性結合組織病、慢性甲状腺炎など)に合併した二次性シェーグレン症候群と、これらの合併のない原発性シェーグレン症候群に分類されます。
原発性シェーグレン症候群は

  1. 涙腺や唾液腺など外分泌腺だけが障害される腺型
  2. 外分泌腺以外の組織障害をともなう腺外型
  3. 眼や口腔の乾燥症状を自覚しない潜在型

に分類されています。
二次性シェーグレン症候群の中では、慢性関節リウマチの患者さんの約20%にシェーグレン症候群が発症するので注意が必要です。

■ 症状
乾燥症状が最も多い症状ですが、自覚症状のない症例も多く、10-30%に認められます。

  1. 目の乾燥 (ドライアイ)
    目がかゆい、目が痛い、涙が出ない、目がころころする、目が疲れる、物がよくみえない、まぶしいなど。
  2. 口の乾燥 (ドライマウス)
    口が渇く、唾液が出ない、食事中によく水を飲む、パンが食べにくい、味がよくわからない、口内が痛む、虫歯が多くなったなど。
  3. その他の部位の 乾燥症状
    鼻腔、咽頭、喉頭、膣など
  4. その他
    紫斑・皮疹・レイノー現象・日光過敏などの皮膚症状も見られます。また唾液や耳下腺の腫れ、全身症状として疲労感、記憶力低下、頭痛も多い症状です。
    原発性SjSでは、何らかの呼吸器症状が40-70%に認められ、気管、気管支粘膜の萎縮などにより乾性咳、息切れなどを訴えます。

■ 診断は
1999 年に厚生省の診断基準が改定され、

  1. 口唇唾液腺または涙腺組織の生検組織でリンパ球浸潤がある
  2. 唾液腺造影でstageI以上の異常所見
    または唾液の分泌低下がガムテスト、サクソンテスト、シンチグラフィーなどで証明される
  3. 涙の分泌低下がシャーマーテスト、ローズベンガル試験、蛍光色素試験などで証明される
  4. 血清検査で抗SS‐A抗体か抗SS‐B抗体が陽性である

以上4項目の中で2項目以上が陽性であればシェーグレン症候群と診断されます。

■ 治療は
残念ながら、現状では根本的にシェーグレン症候群を治癒させる治療はありません。したがって治療は疾患の活動性を抑えながら、乾燥症状を軽快させることになります。活動性を抑えるには日常生活に気をつける必要があります。
規則正しい生活、安静と十分な睡眠、過労をさける、バランスの取れた食事:栄養素、寒冷をさける、精神的・肉体的ストレスをさける、適正体重の維持、適度の運動や入浴、強い日光をさける(帽子、長袖シャツ、日焼け止めクリームの使用など)などが大切です。

対症療法として、目の乾燥(ドライアイ)には人工涙液、口の乾燥(ドライマウス)には人工唾液が使用されますが、2001年より日本国内でも唾液分泌を促進する内服薬が承認されています。

また唾液腺や涙腺の慢性炎症を抑制する目的で非ステロイド系抗炎症剤やステロイドが使用されることがありますが、その効果はハッキリしていません。ただし唾液腺腫脹を繰り返す場合や腺外症状がある場合にはステロイドの有効性が報告されています。免疫抑制剤も使用されることもありますが、SjS症候群では悪性リンパ腫の合併が高いことを考慮すると、その使用には注意が必要です。