全身性エリテマトーデス
■ はじめに = (Systemic lupus erythematosus : SLE) =
全身性エリテマトーデス (systemic lupus erythematosus; SLE) は免疫異常を基盤として,全身の臓器を障害する炎症性疾患・自己免疫疾患で、寛解と像悪を繰り返す慢性疾患です。SLEの病因はいまだ不明で,その発症には遺伝的素因,免疫学的要因,環境要因(紫外線,感染,性ホルモンなど)などが複雑に関与していることが推測されています。
■ 頻度と性差
頻度と性差、SLEの発生率、病態は人種差が大きく、わが国における罹患率は10万人当たり8-10人で、男女比は1:9-10と圧倒的に女性に多く、20-40歳代に好発する病気です。
■ 診断基準
SLE分類のための1997年改訂基準(米国リウマチ学会) | |
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1. 頬部紅斑 | |
2. ディスコイド疹 | |
3. 光線過敏症 | |
4. 口腔潰瘍 | |
5. 非びらん性関節炎 | |
6. 漿膜炎 | a )胸膜炎 または, b )心膜炎 |
7. 腎障害 | a ) 0.5g/ 日以上または +++ 以上の持続性タンパク尿 または, b )細胞性円柱 |
8. 神経障害 | a )痙攣 または, b )精神障害 |
9. 血液異常 | a )溶血性貧血 b )白血球減少症(< 4,000/ μ l ) c )リンパ球減少症(< 1,500/ l ) または, d )血小板減少症(< 100,000/ μ l ) |
10. 免疫異常 | a )抗二本鎖DNA抗体陽性 b )抗Sm抗体陽性 または, c )抗リン脂質抗体陽性 1 )IgGまたはIgM抗カルジオリピン抗体の異常値, 2 )ループス抗凝固因子陽性, 3 )梅毒血清反応生物学的偽陽性,のいずれかによる |
11. 抗核抗体陽性 | |
同時にあるいは経時的に11項目中いずれかの4項目以上が存在する |
■ 症状
全身症状 | 38℃以上の高熱が50-80%の症例に認められ、発熱は疾患活動性を示す重要な症状の一つです。また全身倦怠感,易疲労感,体重減少を認めることが多いのも特徴です。 |
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皮膚・粘膜症状 | 蝶形紅斑(頬部紅斑)とディスコイド疹が特徴です。手掌や爪周囲の紅斑,皮膚の網状青色皮斑など認められ、皮疹は日光・紫外線に対して光線過敏性を示します。頭髪の脱毛,口腔・鼻咽頭の無痛性潰瘍も認められます。 |
関節症状 | 約80%に骨破壊を伴わない多発性関節炎が認められます。 |
腎泌尿器症状 | SLEの約半数にみられる腎障害(ループス腎炎)は,予後を左右する最も重要な臓器障害です。持続性のタンパク尿や顕微鏡的血尿を認め,ネフローゼ症候群を経て,腎不全へと進行することがあります。 |
心肺病変 | 漿膜炎(胸膜炎,心外膜炎)が約20%に認められます。間質性肺炎、急性肺胞出血、肺高血圧症がみられることがあります。 |
消化器症状 | 腹痛、悪心・嘔吐、下痢などの症状を約30%の症例に認めます。肝臓では軽症のものから慢性活動性肝炎から肝硬変に至るものまであります。腹膜炎による腹水貯留、血管炎による腸間膜動脈閉塞症も報告されています。 |
中枢神経症状 | 出現頻度は20-70%と、報告により異なります。中枢神経症状は予後に影響する重要な症状で、3大死因の一つになります。痙攣発作と精神症状が基本的症状ですが、症状は多彩でありSLEに特異的なものはありません。 |
■ 検査所見
血球減少症 | 白血球減少症では、リンパ球の減少がより高度にみられます。血小板減少症例では、出血傾向が現れる事があります。抗赤血球抗体(クームス抗体)はSLEの約20%に陽性ですが、溶血性貧血の発症はその一部(5%以下)にすぎません。ループス抗凝固因子が存在すると、血栓症状を起こしやすくなります(抗リン脂質抗体症候群)。 |
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抗核抗体 | 蛍光抗体法による抗核抗体はSLEの95%以上で陽性です。 抗DNA抗体は50-70%、抗Sm抗体は15-25%の症例に陽性で、特に二本鎖DNA抗体と抗Sm抗体は SLEに特異性が高く診断的価値が高い検査です。 |
その他の自己抗体,免疫学的異常 | クームス抗体、抗リンパ球抗体、ループス抗凝固因子、抗リン脂質抗体、リウマトイド因子、抗SS-A抗体、抗SS-B抗体など多彩な自己抗体が見出されます。高γグロブリン血症、梅毒血清反応生物学的偽陽性(BFP)、免疫複合体の高値、低補体血症などの免疫異常を高頻度に認めます。 |
炎症反応 | SLEの活動期には赤沈値は亢進しますが、CRPは正常域か軽度にしか上昇しません。CRPの著明な上昇を認める場合には、感染症の合併を考慮する必要があります。 |
■ 治療
まず日常生活の注意事項として、不規則な生活、心身の疲労、寒冷、紫外線、感染症の合併などはSLEの増悪因子になりますので、注意が必要です。
SLEは免疫異常を基盤とした全身性の炎症性疾患ですから、薬物療法は過剰な炎症と免疫反応の抑制を抑制することが主体となります。障害されている臓器と重症度、病気の活動性に応じた治療が必要となります。強力な抗炎症作用と免疫抑制作用を持つステロイド薬による治療が基本となりますが、その投与量は軽症のSLE(微熱、関節炎、皮疹に限られる)では、プレドニゾロン(PSL)20mg以下、重症のSLE(重症腎炎(WHO-IV型、ネフローゼ症候群、進行性腎不全、中枢神経症状、出血症状をともなう血小板減少症、溶血性貧血、急性間質性肺炎、心外膜炎、全身性血管炎などの合併)に対しては、PSL1mg/kgを初期量として用いるのが一般的です。
経口投与の効果が低い場合には、メチルプレドニゾロン1,000mg/日点滴静注3日間を1コースとして行う、ステロイドパルス療法が行われます。即効性があり有効率も高い治療ですが、副作用発現率も高いため注意が必要です。
ステロイド薬が無効の場合、ステロイドによる重篤な副作用のため増量できない場合には免疫抑制薬を併用します。アザチオプリン、シクロホスファミド、ミゾリビン、シクロスポリンなどが用いられます。またシクロホスファミドパルス療法(500-1,000mgを月1回点滴静注)は、連日経口投与に比較すると効果が高く副作用の少ない治療として有用性が示されています。
その他、急性期に抗DNA抗体や免疫複合体を除去し、組織障害を抑制する目的で血漿交換療法や免疫吸着療法を行うこともあります。しかしこれらの治療法は病勢が強い時期に行われる補助的な治療に過ぎません。